シリコンバレー企業の人事に聞いた、キャリアのつくり方
アドビ株式会社 人事部採用チーム シニアマネージャー 杉本 隆一郎
この記事は、アドビ株式会社 人事部採用チームのシニアマネージャーである杉本隆一郎さんに行ったインタビューの<後編>となります。<前編>「シリコンバレー企業が考える、VUCA時代の活躍人材とは」という記事では、長期インターンシップに参加する魅力、アドビで働く魅力、アドビが求める人物像などを語っていただきました。
<後編>の今回は、アドビに限らずグローバル企業を含め多くの企業で人事を経験されてきた杉本さんに、これからの時代のキャリアのつくり方について伺いました。大学生のみなさんにとって学びの多い内容ですから、ぜひ参考にしてください。
<プロフィール>
上智大学を卒業後、人事業務を8年にわたり経験。2006年4月に楽天に入社し、マネージャーとして海外MBAや国際ビジネス経験者を中心とした幹部候補の採用をリードする。2012年1月にリンクトイン日本法人の立ち上げに参加し、人事責任者、日本オフィス代行などを歴任。その後、アクセンチュア、日本アイ・ビー・エムにて採用統括職を経験し、2019年9月より現職。
将来を考えて行動する人としない人の差が大きくなっている
―――後編では、日本の新卒採用について伺います。さまざまな企業で採用業務に携わってきた杉本さんから見て、現在の日本の大学生はどのように見えていますか?
ここ数年、けっこう変わってきていると感じますね。具体的には「就職がどういうものかちゃんと分かっている」「業界研究や職種研究をしっかりやっている」という学生が増えているように感じています。
日本での採用活動では最終面接などを担当することが多いですが、海外のキャリアフォーラムなどに行った際には、参加した学生との最初の面談を担当することもあります。そこで接する海外の大学生と比較をしても、日本の大学生も将来のキャリアを考え、行動しているのだということが伝わってきます。
―――そうなんですね。自ら行動する学生が増えているということでしょうか。
その通りです。私自身の話になってしまいますが、自分の就職活動を振り返ると、3年生の秋くらいに周りが動き出すのを見て「そろそろ何かやらなきゃ」と就職活動をスタートしました。そこからマスコミ、食品メーカー、不動産業界…と、周りに合わせてひと通り受けていったという感じでした。
そんな私から見れば、将来のことを考え、自分なりに情報収集をしたり、行動したりしている大学生はかなり増えてきている印象です。こうした変化は、特にこの数年で変わってきているように思いますね。
―――一方で「将来やりたいことが分からない」「就活が怖い」という声もよく聞きます。
そういう意味では、「将来のことを考え、しっかり情報収集をしている人」と「何もやっていない人」の差が大きくなっているのだと思います。将来に向けて何もやっていない人は働くことのイメージもできておらず、就職に苦労している印象です。ですので誤解を恐れずに言えば、「就職難だ」「就職氷河期だ」と言う前に、まずはやるべきことがあるのではないかと思ってしまいます。
就職について考え始める時期は年々早期化しています。大学2年生・1年生で始めるケースも普通ですし、早ければ高校生の頃からキャリアの話をする人も増えています。こうした時代の流れにはしっかり乗っていくのがいいのではないでしょうか。
今の時代、インターネットを使えばいくらでも情報を得ることはできます。YouTubeでもちょっと検索すれば、キャリア系の動画はすぐに見つけられるでしょう。いろいろなソースで情報を収集できますから、将来の自分のために少しでも時間を投資するところから始めるのがいいと思います。就職活動が始まってから情報収集をするのでは遅いですから。例えば同じYouTubeを見るのでも、娯楽の動画を見るのをキャリア系の動画に変えるだけでも変わってくると思いますよ。
海外の学生は、入学式からキャリアを考え始める
―――ここまでのお話から、できるだけ早い段階から自分のキャリアを考え始めることが重要だと分かりました。こうした点について、海外の大学生はどうしているのでしょうか。
私が以前に働いていた、LinkedIn(リンクトイン)で聞いた話をご紹介しましょう。
LinkedIn(リンクトイン)はアメリカ発のSNSの1つで、世界最大級のビジネス特化型SNSです。そう聞くと、就職して社会人になってから使うものと思うかもしれませんが、海外の大学では使い始めるタイミングが違うんですね。
―――興味深いお話です。具体的にはどのように違うのでしょうか?
大学に入学した直後のオリエンテーションで、大学の先生から「よーし、みんな、今日からLinkedIn(リンクトイン)のプロフィールをつくりこんでいくぞ」という説明があるのです。そこから学生は、何か研究をしたり論文を書いたりすると、その情報をLinkedInにアップデートしていきます。そして企業の長期インターンシップにエントリーする際には、LinkedInのプロフィール情報をもとに選考が行われます。言い換えると、こうしたプロフィールを更新していないと、インターンシップの選考すら受けられないことになります。
このように海外の大学では、入学式のオリエンテーションの段階から自分のキャリアを考え、つくっていくことが意識づけられます。こうした点は、各個人に委ねられている日本と大きく違うのではないでしょうか。
―――日本と海外の大きな違いを感じるところです。
日本と海外との違いで言えば、日本はまだまだ「就職」ではなく「就社」という意識が強いと思います。最近では「就職」志向の学生も増えていますので、これから変わっていくでしょう。人事の立場からしても、「この職種に就いて、こんなことがやりたい!」とキャリアイメージが明確な人と、「御社だったら何でもやってみたいです」と入社がゴールの人では、面接などで話していても大きな差を感じるところです。
動き出しが早いほど、進みたい道を歩んでいける
―――最後に、学生へのメッセージをお願いします。
自分の将来って、自分で決めたいと思うんですよね。将来どんな道を歩んでいくかは、誰しも自分で決めていきたいでしょう。そう思うのであれば、まずは「なりたい自分」のイメージを持ち、そこから逆算して「今は何をすべきか」「次は何をやればいいのか」と考えていくことが重要です。そしてそれが早ければ早いほど、自分が想像した方向へと進んでいくことができますからね。
例えば医師になりたい人は大学で医学部に入る必要があるし、弁護士を目指す人は法学部に行くのが近道でしょう。プロ野球選手になりたいのなら、小さい頃から始めたほうが実現の可能性は高くなるはずです。これは他の仕事でも同じで、早ければ早いほど自分が進みたい道に進めるのではないかと思います。
ですので、大学1年生・2年生など早期に自分の将来をイメージしてみる。そして企業アルバイトや短期インターンシップなどを経験しながら、いろんな可能性を試し、やりたいことを明確にしていく。そして就活が本格化する3年生でインターンシップに参加する際には、本当に行きたいところにエントリーしてみる。このように戦略的に考え、行動することを大切にしてほしいと考えています。
―――周りに流されず、自分で決めるというのが大切なのですね。
その通りです。人に委ねるのではなく、自分の将来は自分で決めていく。それを実現するためにも、自分なりに情報を収集し、しっかりと考えて、将来のために必要なものを身につけていく。そういったキャリアのつくり方に学生のうちから気づいて、早い段階から行動を始めることが重要になってくると思います。
―――自分次第で、未来はいくらでも変えられるとワクワクしてきました。
日本社会も、変化のタイミングを迎えているのではと感じています。
日本におけるこれまでの新卒採用は、会社のほうが圧倒的に立場が強い傾向にありました。総合職としてまるっと一括採用をして、新卒社員の希望を聞くには聞くものの、配属先や仕事内容は会社側が一方的に決めていました。例えば営業職を希望しても法務部に配属されたり、経理経験はなくともひとまず経理部に配属と言われたり…。すべてを会社側が決めて、決められたことにNOと言えない、一度入社すると辞めるに辞められない…こうした状況が当たり前でした。
それが日本のスタンダードでしたが、こんなバカバカしい話ってないと思うのです。私自身これまで何回も転職していますが、「自分のやりたいことはこれじゃない」「会社と自分が合わない」と感じたときに環境を変えたこともありました。自分のやりたいことや将来目指すキャリアがあって、培った知識やスキルがあるのなら、今いる会社を飛び出してでもそれを叶えることができる。それがグローバルスタンダードです。
そういったキャリアをつくっていくためにも、自分が将来どうなりたいかを考えることが大切です。早ければ早いほうがいいですから、まずは一歩を踏み出すところから始めてほしいと思っています。
最後に
前編・後編にわたり、アドビの杉本さんのお話をお届けしてきました。長期インターンシップに参加する魅力、アドビで働く魅力のみならず、さまざまなグローバル企業を経験してきた杉本さんだからこそのキャリア論を伺うことができました。社会が大きく変化している時代だからこそ、自分の将来について自分で考え、キャリアをつくっていくことが大切になる。そんなメッセージが印象に残った取材となりました。