学生インターンに、ベンチャーキャピタル業務を任せる理由
PE&HR株式会社 代表取締役 山本 亮二郎
「ベンチャーキャピタリスト」という仕事をご存知でしょうか。
ベンチャーキャピタリストとは、高い成長が見込める未上場企業に投資(資金の提供)を行い、投資先企業の成長を実現することによってキャピタルゲインの獲得を目指す職業です。投資後は自ら株主となり、起業家とともに会社を成長させていくため、大きな責任感と緊張感を伴うことになります。高い知性、気力、体力、胆力、創造性が求められる仕事ゆえに、“人類最高峰の難しさと面白さ”を体感できる仕事とも言われています。
そんなやりがいのある仕事に、あなたも挑戦してみませんか?
今回ご紹介するPE&HR株式会社は、学生インターンをベンチャーキャピタリストとして育成し、確かな実績を記録している会社です。この記事では、代表取締役の山本さんにインタビューを実施し、学生インターンにベンチャーキャピタル業務を任せる理由、企業理念に込められた想い、求める人物像などについてご案内しています。
<プロフィール>
1968年生まれ。早稲田大学第二文学部社会専修卒業。株式会社インテリジェンスなどを経て、フューチャーベンチャーキャピタル株式会社入社。アーリーステージを中心に投資し、投資先企業の成長支援に注力する。2003年5月、企業の成長発展に「資本」と「人材」の両面から貢献するというコンセプトを掲げ、PE&HR株式会社を設立、代表取締役に就任。2004年5月「若手起業家のための投資事業有限責任組合」設立。2006年4月「Social Entrepreneur投資事業有限責任組合」設立。2007年9月「関西インキュベーション投資事業有限責任組合」設立。2013年12月「Social Entrepreneur2投資事業有限責任組合」設立。2016年6月「東松山起業家サポート投資事業有限責任組合」設立。2019年8月「Social Entrepreneur3投資事業有限責任組合」設立。2022年4月「埼玉りそな創業応援投資事業有限責任組合」設立。2022年8月「Social Entrepreneur4投資事業有限責任組合」設立。ベンチャー企業への投資と共に成長支援の実践的サービスを提供する。
ユーザーライク株式会社、株式会社フィットクルー、株式会社SARAH、株式会社シックスティーパーセント、株式会社アクティバリューズ、株式会社Creatorsの社外取締役、株式会社VIE STYLEの社外監査役、株式会社スープアンドイノベーションの代表取締役社長を務める。これまでに13社の上場経験と、2~74倍で13度の売却実績がある。ほかに第一勧業信用組合の評議員を務める。また、グループに10数店の飲食チェーンを持つ。
学生に、ベンチャーキャピタル業務はできるのか?
―――ベンチャーキャピタリストは、“人類最高峰の職業”とも言われるなど非常に難易度の高い仕事です。そんな仕事を、インターン生である学生に任せてみようと思ったのはなぜなのか。まずは、その背景からお伺いしていきたいと思います。
当社がインターン生の受け入れを始めたのは、2014年。『キャリアバイト』の営業担当者に勧めてもらったのをきっかけに、4名を採用しました。彼ら彼女らとは卒業後も時々食事会をしているのですが、4名全員が非常に優秀だったんです。
ところが当時、会社は難しいタイミングにありました。ちょうどすべての投資が終わっていて、次の投資資金を調達しようと企画を練っているときでした。せっかく優秀な学生が入社してくれたのに、お願いできる業務は留守番と雑用だけ。それでも卒業間際まで勤務してくれたことに感謝しつつも、申し訳ないという気持ちを抱いていました。
彼ら彼女らほど優秀であれば、ベンチャーキャピタル業務を任せられたんじゃないか。投資資金さえあれば、もっと高度な業務を任せられたのに。その想いが、インターン生にベンチャーキャピタル業務をしてもらおうというきっかけになりました。
それから年が明けて2015年の春から、スタートアップに投資した企業が立て続けに3社上場したことなどから、まとまった資金が手に入りました。ファンドの募集もでき、会社としても体制が整ってきたことから、インターン生にも投資業務にチャレンジしてもらうことにしたんです。
―――インターン生を受け入れ、その優秀さを肌で感じたことで、学生ベンチャーキャピタリストとして育成していこうと考えるようになったわけですね。では、実際に投資業務を任せるようになって、どのような実績が出ているのでしょうか。
「学生に投資業務ができるのですか?」と聞かれることは、よくあります。こうした問いに対して、私は「できる。実際にやっている」と断言できます。
事実、2015年から2022年までの間にも、インターン生の働きから多くの投資実績が生まれています。スポーツアプリ、ブレインテック、グルメアプリ、動画メディア、ヘルステック、音楽配信関連(複数社)などの事業を行うスタートアップへの投資を決めてきました。1年間で複数社への投資をした学生もいますし、1億円以上の投資をした学生もいます。「学生にできるのか?」の問いには、「これだけやっているじゃないですか」という実績が何よりの回答です。
―――すごいですね…学生でもそこまでできるんだというのは励みになります。
それだけではありません。2022年には、過去に学生が投資した企業が急成長し、巨額のキャピタルゲインをもたらせてくれました。それ以外にも、学生が投資した企業の何社かから、大きなリターンを得られる見込みとなっています。
こうした成果から、「学生に投資業務ができるのか?」という議論はもう終わったと考えています。事実として2015年からやってきたし、そこから大きな成果も生まれている。そこに疑念をさしはさむ余地はありません。
どれだけ手間をかけても、どれだけ教える時間や採用費を投資しても、学生インターンに投資業務を任せることで大きな利益をあげられることが分かった。こうした背景から、ファンドマネジメント上でも非常に重要なベンチャーキャピタル業務をこれからも学生に任せていきたいと考えています。
無名の若者の創業期に投資し、成長を支援する
―――ここからは、会社についての理解を深めていきたいと思います。PE&HRでは、「無名の若者の創業期に投資し、成長を支援する」という経営理念を掲げていますが、この理念はどういった想いから生まれたものなのでしょうか。
その説明をするために、まずはベンチャーキャピタルファンド(VCファンド)についてお話したいと思います。VCファンドでは、複数の投資家から出資を募ってファンドをつくり、有望なベンチャー企業に投資をしていきます。起業家と事業を詳しく調べて、理解して、未来を評価して、投資するかどうかを判断するわけです。
VCファンドの運用者であるベンチャーキャピタルは、ファンド総額に対して年率2~3%程度の管理報酬を受領します。返済しなくてもいい資金を調達するだけでなく、例えば100億円集めれば毎年2~3億円を活動資金としていただけるのです。それほど好条件な資金を調達するこの仕事は、相当に難易度が高いと言えます。つまり、この仕事に就く人はいわゆる「エリート」が集まっているのです。
―――なるほど…。
そのエリートたちがどのような投資行動をするかというと、自分の身近なところから投資を決定していきます。つまり、前職や大学の先輩や後輩といった同じような境遇の人たち、自分の理解が届く範囲から優先して決めていくわけです。
そのような投資判断を、もちろん否定しません。ただ、私自身は自分なりのやり方で投資候補先企業を探し、判断したいと思い、この会社を創業しました。
―――それは、どういった考え方に基づくものなのでしょうか?
本来、商売は自由で平等で、誰もが参加できる世界です。学歴や偏差値も関係ありません。そんな世界をエリートたちに牛耳られてしまうのではなく、無名の若者でも投資や経営という支援を受けられるようにしたい。だからこそ私は、まずはそのような人たちに投資をしたいと思い、それを経営理念に込めました。
トヨタグループの創業者である豊田佐吉さんや、パナソニックホールディングスを一代で築き上げた松下幸之助さん、ソニーを創業した井深大さんも、最初から恵まれた境遇にいたわけではありません。だから、「やりたいことや実現したいことがあるけど、自分の実力ではその資金を調達することができない」と、諦めてしまうことはないんです。私たちが投資をしますから、ぜひ遠慮なく勝負に来てほしいと思います。
―――誰もが自由に平等に、商売の世界で勝負できるようにしたい。そんな想いから会社を立ち上げられたわけですね。では、そういった考え方のもとで投資決定を行ってきた結果、どんな成果が出ているのでしょうか。
2003年に会社を設立して以来、大手銀行、多数の地域金融機関、商社、政府関連機関、上場企業や個人から出資を受け、現在は8つのベンチャーファンドを運営しています。1社あたり約1,000万~1億4,000万円を、これまで100社以上に投資してきました。上場した投資先は13社で、他に2~74倍で13回の売却実績があります。出資いただいている金融機関や事業会社などから、「社数・倍率ともにトップまたはトップクラス」との評価をいただいています。トップになることが目的ではありませんが、自分たちの思想や投資方法が間違っていなかったからこそ、こうした実績を残せたのだと思います。
―――すごいですね。「無名の若者の創業期に投資し、成長を支援する」という理念を大事にしてきたことが、実績にもつながっていることが分かります。
もう少し紹介させてください。2016年6月からは、埼玉県東松山市から「東松山起業家サポートファンド」の運用を任されています。これは、都道府県や政令指定都市以外の基礎自治体が初めてつくったベンチャーファンドです。最初は分からないことも多く苦労しましたが、これまで8社への出資をし、非常に良い成績を残せると確信するまでになっています。
2022年4月には、りそなグループの埼玉りそな銀行から出資を受け、「埼玉りそな創業応援投資事業有限責任組合」を設立しました。2016年から埼玉県東松山市で取り組んできた実績をもとに、今後は埼玉県全域で一緒にやっていこうとなったわけです。
また、SDGsへの注目が高まり、今ではソーシャルインパクトやESG投資が花盛りですが、私たちは2006年から「Social Entrepreneur投資事業有限責任組合」とソーシャルと名のつくファンドを運営してきました。今年、その4号目を設立しています。
いずれのファンドも、かなり先の未来を見据えて企画し投資活動を行ってきた結果、高い成果につながっています。ここから時間の経過に伴って、より大きなリターンも生まれるでしょう。世界のトップに立つ可能性もあります。
ベンチャーキャピタリストに向いている人とは?
―――最後に、学生の方へのメッセージを伺っていきます。ここまでのお話から、PE&HRで働きたい、ベンチャーキャピタリストに挑戦したいと考えた方もいると思います。改めて、PE&HRで働く魅力について教えていただけますでしょうか。
当社のインターンでは、私のもとで、投資先企業の発掘(ソーシング)から面談、デューデリジェンス、投資実行までひと通りの投資業務を担当者として経験することができます。ベンチャーキャピタルで働けるインターンは他にもありますが、ソーシングまで、面談設定をして社員につなぐまでで終わり…というケースが多いです。投資実行まで関わることができるのは、当社ならではの魅力と言えるのではないでしょうか。
―――「この企業は自分が関わったんだ」という実感を強く感じられそうですね。では、求める人物像について教えていただけますでしょうか。
2014年からインターン生の受け入れを始め、緊急事態宣言が発出された2020年を除いて、毎年5~10名のインターン生を採用してきました。みなさん優秀な方ばかりでしたが、どんな人が活躍できるかを面接段階で見きわめるのは難しいです。ですので向いている人を定義するのは容易ではないのですが、特に高い成果をあげていた学生を見ていると、一つの共通点があると感じています。
それは、とても素直で謙虚だということです。さらに、どちらかと言えば口数の少ない方が多いと思います。それはなぜかと考えると、投資決定までのほとんどが分析だからです。100ページを超えるような詳細な事業説明資料、数値計画、資本政策など多くのデータを読み込む。起業家との面談でも、相手がどういう人かを観察し、徹底的に理解しようと努め、経営力や人間力を評価していく。そのような過程で自分をアピールする必要はないため、話すことは得意じゃなくてもいいんです。口八丁手八丁というより、分析や探求に長けた人が向いているのだと考えています。
―――特別なスキルや知識が必要というより、素直さと謙虚さを持ち、粘り強く分析に取り組むことができ、相手を正しく評価できることが重要なのだと感じました。最後に、学生の方へのメッセージもお願いいたします。
私たちが向き合う起業家の方々は、命を懸けて事業を行っています。そのような方々への共感はもちろん、応援したい、役に立ちたい、力になりたいという気持ちがベースにあるかどうか。それが何より重要です。活躍していたインターン生は共通してその気持ちを持っていたと思います。
出発点としては「金融業界に興味がある」「ベンチャーキャピタルで働いてみたい」という気持ちで構いませんが、チャレンジするからには、「誰かのために役立ちたい」「社会に貢献したい」という気持ちを強く持てるかどうか。志望動機や面接の際には、ぜひその気持ちをアピールしていただきたいと期待しています。
最後に
いかがだったでしょうか。学生のうちから投資業務に挑戦できるのは魅力である一方で、「自分にできるだろうか」と不安を感じる方もいると思います。しかし、同社のインターン生の活躍ぶりを知り、勇気をもらった方も多いのではないでしょうか。ベンチャーキャピタリストを目指すうえでは、高い知性や気力、体力、胆力、創造性が求められると言われますが、興味を持った方はぜひ応募してみてほしいと感じました。